今月の法話: 六祖壇経

[四]呈偈ていげの命令
 五祖は一日諸々の門人をぶ『な来たれ、吾は汝に向って説けり世人は生死事大しょうじじだいなりと。汝等は終日供養するも只だ福田ふくでんを求めて、生死の苦海を出離せんことを求めず。自性若し迷わば福は何ぞ求むべけん。汝等は各々後院こういんきて自ら看よ。智慧もて自らの本心般若のしょうを取って、各々一偈いちげを作り来たって吾れに呈し看よ。若し大意を悟らば汝に衣法えほうあたえて第六代の祖とさん。火急速いそぎすもやかけ遅滞することを得ざれ。思量せば即ち用にあたらず。見性けんしょうの人は言下に須く見るべし。若しかくの如き者は輪刀上陣りんとうじょうじんにもた之を見ることを得ん』

意 訳
 或る日、五祖弘忍大師ごそぐにんたいしは門弟全員に『皆んな集まれ、ワシは何時もお前等に、人生に於て生死の問題は極めて重大であり、輪廻転生りんねてんしょうを如何に超脱するかが最大事であると説いて聞かせてきたじゃないか。お前等は一日中諸佛祖師方等に供養をしているが、只だ聖者になりたいと願うばかりで、生死の苦海を出離しようとしないではないか。若し自性が迷ってしまえば、福はどうして求められようぞ。お前等皆んなは、後ろの庭へ行って真実まことの自己をよく見てみよ。真実まことの自己を働かせて真実まことの自己である般若のしょうに触れて、各自一篇の詩を作ってワシに提出せよ。若し真実まことの自己を悟った者が居れば、その者に祖師伝来の袈裟けさを授けて、ワシの次の第六代の祖師としよう。急いで行け、グズグズするな。思量分別・知解情量して作ったなら計較情塵けきょうじょうじんとなって、真実まことの自己の詩ではなくなるから何の役にも立たないぞ。見性けんしょうした程の人なら、ワシの話を聞いている今、気が付かなければならないのじゃ。若しそういう人ならやいば交わる戦場に於ても、チャンと真実まことの自己に生きられる筈じゃ』と命令されたのである。 

□ 生死事大しょうじじだい=生死の問題は極めて重大であり、輪廻転生りんねてんしょうを如何にして超越するかが最大事であるということ
□ 輪廻転生りんねてんしょう=車輪がグルグル廻るように六道ろくどうの迷いの世界を生死して止まらないこと
□ 六道ろくどう地獄じごく餓鬼がき動物どうぶつ阿修羅あしゅら人間にんげん天上てんじょうの世界
□ 苦海=三界:欲界よっかい色界しきかい無色界むしきかい。是れを世間という
□ 供養=佛法僧・父母・亡者等に御供えして回向えこうすること
□ 般若=prajuna・panna。煩悩・生死を除いた智慧。六波羅蜜ろくはらみつの一つとして、諸佛の母と讃歎され佛果を得る為の最も重大な要素とされる
□ 六波羅蜜ろくはらみつ布施ふせ持戒じかい忍辱にんにく精進しょうじん禅定ぜんじょう智慧ちえ
□ しょう=本質・本体。⇔相  相=ものの姿・特質・体質・特徴・現象等々
□ =自己の境界きょうがいを詠じた詩
□ 境界きょうがい=修行して到達した心の状態
□ 大意=根本精神
□ 衣法えほう=伝法のしるし袈裟けさ
□ 輪刀上陣りんとうじょうじん=刀を車輪のように振り廻して敵軍中を行く戦術