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この時、六祖慧能大師は旣に講座に昇っておられて、聴衆に『各々方よ、皆んな心を浄めて摩訶般若波羅蜜を念ぜよ』と云われたのである。大師御自身もしばし無言を保たれて自らの心を浄められた後、忽然として『各々方よ、自己の本心は本來清浄である。この清浄な心を用いて直ちに成佛せよ』と云われたのである。そうして『各々方よ、先ずは私慧能の修行の因縁と開悟に至る由來とその内容を聞け。私の父は本籍は范陽であるが左遷されて嶺南に流されて新州の百姓になったのである。それだけではなく、上幸にも父は早く亡くなったのである。老母と孤児になった私とは南海に移って来て、艱難辛苦の貧乏暮らしをして、私は市で柴を売って生計を立てていたのである。或る時、一人の客が柴を買って、私に官営の旅籠迄送り届けさせたのである。旅籠で客は柴を受け取って、私は代金を貰って外に出ると、一人の人が金剛経を読んでいたのである。それを聞いた途端に、私は心が一気に別世界に翻轉したのである。私は堪えきれずに『貴方は何処から来られて此の経典を持っていらっしゃるのですか?』と問うてしまったのである。その人は『私は蘄州黄梅県の東馮母山より来たのである。其の山には五祖弘忍大師が居られて僧俗を教化しておられるのである。門人は一千有餘人で、私は其の山に行って弘忍大師に礼拝して此の経を聞いて更に御経本を頂いたのである。弘忍大師は常に僧俗に勧めて、只此の金剛経を読みさえすれば、忽ち見性して直ちに成佛出来るのじゃ』と云っておられるのである』。
この話を聞いた私慧能は、過去世からの御縁があったのか、或る人が、老母の衣朊や食料に充てるようにと銀十両を私慧能に下さったので、直ちに黄梅に行って五祖弘忍大師を礼拝することが出来たのである。母が一人で生活出来るようにして、直ちに母に出立の挨拶をして、二、三十日を経ずして蘄州黄梅に到着して五祖弘忍大師に礼拝することが出来たのである。
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